Z選択的メタセシス

Catalytic Z-selective olefin cross-metathesis for natural product synthesis

S. J. Meek, R. V. O’Brien, J. Llaveria, R. R. Schrock, A. H. Hoveyda, Nature,2011,471,461

Natureに有機化学の話題が出ることは結構レアなのでチェックしておくことにしています。

ご存知ちょっと前にノーベル賞を獲ったアルケンメタセシスを触媒するHoveyda-Grubs触媒。メタセシス反応発見当初は使い物になるのか疑問視されていましたが、活性向上のための検討の積み重ねにより開環・閉環・クロスカップリングといろいろ使える優秀な反応に鍛え上げられました。有機化合物の(特に天然物の)合成計画はカルボニルをはじめとする強く分極した官能基を取っ掛かりに組み立てられることが多く、オレフィンの二重結合でくっつけるという発想はそれまでなかったといっていいと思います。

逆合成を変えた反応なんですね。いま流行のC-H活性化もその思想を受け継いでいるように思います。

しかしそんなイケメン反応にも問題も残っています。生成物であるアルケンのE/Zの制御、特に熱力学的に不安定なZ体の生成が難しいのです。反応自体が可逆のためわざわざ不安定な方に収束させるにはそれ相応の工夫がいります。ここでは触媒活性向上による逆反応の抑制と配位子の設計でなんとかしています。

当たり前と言えば当たり前ですが反応がすすまない基質もあります。見た感じ反応の遅い多置換オレフィンは難しいみたいです。

Natureに出るだけあっていい反応ですがE/Zの選択性は完璧ではなく、またどんなにがんばっても完璧にはなりづらいでしょう。E/Zの異性体は分離精製しにくいことが多く、薗頭(orアルキンメタセシス)からのLindlar還元じゃだめなの?とふと思ってしまいます。

なんにせよ選びうる反応が増えるのはいいことです。あとは安く購入できるようになればいうことないですね。