tripletDNP

DNPといえば固体NMR業界(そんなものあるのか・・・?)では最近はやりの高感度測定法です。

これは交差分極とよく似ています。
CP(交差分極)は13Cなどのレアスピンを主に1Hかの分極を移して観測し感度を上げる方法です。このために必要なのがハートマンハーンの条件で双方の核にラジオ波を照射します。

一方DNP(動的核分極)では1Hの約660倍のγ値をもつ電子の分極を核に移します。あまりにゼーマン分裂の幅が違うために核スピンは実験室系で、電子はマイクロは照射によって回転系でハートマンハーンの条件に合わせ熱的に接触させます。

電子は不対電子でなくてはならず、TEMPO誘導体やトリチルラジカル誘導体がよく研究されているようです。


2H-decoupling-accelerated 1H spin diffusion in dynamic nuclear polarization with photoexcited triplet electrons

M. Negoro, K. Nakayama, K. Tateishi, A. Kagawa, K. Takeda, M. Kitagawa, J. Chem. Phys. 133, 2010, 154504

この論文の系は98.3%重水素置換p-テルフェニルの単結晶中にペンタセンという光で3重項状態に励起する分子をドープしています。これにレーザーを当てて三重項ラジカルを発生させて核に分極を移すわけです。

この方法の利点として極低温での測定が必要なくなることが挙げられます。ラジカル種がFID測定中に系中にいれば緩和がやたら早くなり感度が落ちます。光励起だと分極移動中はラジカルはいるけどFID測定中はラジカルを消すことができます。

単結晶でなくても、できれば粉末サンプルでもこういうことができればいのですがまだどんなものにでも使える方法にはなっていない模様です。

ちなみにこの論文は、tripletDNP中に重水素をデカップリングしておくことにより1Hのスピン拡散速度が上がったということをクレームしています。しかし最終的な分極率は重水素カップルなしの方が高く、たぶんサンプルが過熱したから緩和が早くなったんだろうとコメントしています。

じゃぁ冷やしたらどうなんだっていう当然の疑問がわきますが(室温でやってます)実験中なんでしょうか。続報に期待です。