In cell NMRってどうなのよ
NMRで生体分子の構造を決める研究においてのよくある質問として、その(in vitroで決めた)構造はin vivoの構造を反映してるの?っていうのがあります。
とある分子(たいていの場合タンパク質)が細胞内でとある仕事をしていることが分かっていたとして、そいつを単離してひとりぼっちにしたときに決めた構造がお仕事中の構造と一緒だとは限らないじゃないかっていうつっこみです。
もちろん可能ならお仕事中の構造を知りたい。分子を野球選手だとするならば球場でボール投げてるときのフォームが知りたいわけで、個室に閉じ込めた時どんな格好しているかにはあまり興味がないわけです。
しかしそれは難しい。難しい理由はいろいろありますが、特に一つあげるとするなら標的分子の試料中の存在量が少ないためバックグラウンドシグナルとの分離が困難だということだと思います。
いくら安定同位体標識しているとはいえ、生きている細胞中には細胞膜を構成する脂質やら生きていくのに必要な他の蛋白質が沢山あります。それをなんとかしつつ構造決定に必要な相関スペクトルをとってこれる実験系を作るのは簡単ではありません。
とはいうもの解決する方法はいくつもあり、新たな方法論として注目されるホットなトピックです。
今回めっけたのはこれ。
13C Direct-Detection Biomolecular NMR Spectroscopy in Living Cells
I. Bertini, I. C. Felli, L. Gonnelli, V. Kumar M. V. ,R. Pierattelli, Angew. Chem. Int. Ed. 2011, 50, 2339
Cox17という69残基のややちっちゃめのタンパク質が対象なんですが、この系のキモはこいつがシステイン残基を7個含みフォールディング前と後で大きく形を変えるタンパク質だということです。分子間ジスルフィド結合により4量体をつくるのですが、これは還元剤存在下でフォールディング前の状態に戻すことができ、その状態でのシグナルがどこに出るかもあらかじめ知ることができます。
これによって細胞中という環境でどの残基のシグナルがどう変わったのかといったことがはっきりするので、測定そのものがうまくいっているのかがわかりやすくなります。
なるほど面白い系ですがこれによって得られた新しい知見はあまりなく、結構手の込んだ実験なのにACIEなのかもしれませんね。
僕自身も専門ではないのではっきりとは分かりませんが、原子間距離の制限情報となりうるNOESYがうまいこと取れないのがこの分野が今一歩成長できない足かせになっているような気がします。
どんな系ならうまくいくのか、そもそもNMRというアプローチは正しいのか。視野を狭めず考えていきたいですね。